エッセイ

第2回 「人生は、人との繋がりだ。」

この日は朝からピアノの練習をしていたのだが、20時過ぎになってお腹が空いていることに気付く。

「こんな時間でもやってる美味しくて安い定食屋なんてあるかな。(いつも大戸屋と比べて判断する傾向にある。)」

とにかく節約したいと思いつつ財布を片手に外へ。


この時滞在していたのは『サザエさん』で有名な街。

20分ほど探していたら何やら古そうな佇まいのお店を発見。
しかも定食があるではないか。

狭い店内には1人呑みのお客さんが3人いたので割と人気店なのかなと思い、暖簾を潜ってみる。


「いらっしゃぁい。」と、か細い声のおばあちゃん。

「生姜焼き定食いただけますか?」

「もうご飯なくなっちゃったのよぉ。」

「あ、それなら一品ずつ頼みます。ビールと、焼き鳥盛り合わせと、だし巻き卵と、ポテトサラダと…」

もう節約のことは忘れることにして “お金を使っても良いモード” に切り替えた。



お腹空きすぎていたので10分ほどはお食事とビールを黙々といただいていたのだが、

こういう場に来て人と話さないのは勿体無いので
食べながらも他のお客さんやおばあちゃんとの会話に入っていく機会を伺う。


席は離れていたが、
私の左側にミッシャ・マイスキーを黒髪にしたような超絶ダンディーな方(恐らく40代後半)と、
右側にアニマル浜口をしっとりおだやかにしたような方(恐らく60代)がいらっしゃった。

アニマルさんは店内に流れる演歌を聴いて陽気に歌いながら日本酒をクィっとやってらっしゃったのだが、おばあちゃんやミッシャさんと音楽の話をし始めた。

ここぞとばかりに会話に参加。


「私、音大出身でピアニストやってるんですよ」

という、文字にすると一見すごい嫌な奴に見えるセリフが、
今まで何回初対面の人との会話を盛り上げてくれたか数え切れない。



するとなんと、

アニマルさんは昔はトロンボーンをやっていたとのこと。

ミッシャさんも音楽に精通しており、3人でかなり音楽の深いところまで話すことができた。

特に、音楽の根本の部分の話を僕がしたとき、
アニマルさん「そう!音楽は歌だからねぇ。どんな楽器でも歌ってるように演奏しないとな!」

…すごい。

それを体現できるがどうかは別として、プロでも理解できない人がいるのにそれをわかっているアマチュアの人がいるとは。

アニマルさんは現在の職業について、こう仰ってた。

「昔は音の芸術をやってたんだけどね、今は 地球に彫刻をする芸術  に携わってるよ!」

出ました、名言!

ボディランゲージをしながら話してくれたので、それが道路工事の仕事であることはわかったけど「地球に彫刻する芸術」というのは素晴らしい表現だなぁ
と完全に酔っている私は泣きそうになったのでした。


ミッシャさんとは、恩田陸さんの『蜜蜂と遠雷』の話になり、私がそのコンクールに出場していたことを伝えると興味を持って話を聴いてくださいました。

そして、ミッシャさんがボトルキープしていた焼酎からホッピーを作ってもらいました。
実は初めてのホッピー。

3人でホッピー飲みながら談笑。

これは本当に楽しい時間だった。

ミッシャさん「まさかこのお店でここまで深い音楽の話ができるとは思いませんでした。ありがとうございました。(イケボ)」

「こちらこそ、楽しい時間をありがとうございました!」

帰る際、お店のおばあちゃんとも話すことができたのですが、このお店はご主人と二人でやっていたお店だったがご主人が亡くなってからはおばあちゃんが切り盛りしてるとのこと。

ご主人がいた時代からの常連さんが沢山いて、今でも顔を出す人が沢山いるお店…

こういうお店はいずれ無くなってしまうかもしれないが、
常連さんたちの “お店を守っていこうとする気持ち” が伝わってきました。

「また来てくださぁい」と、か細い声のおばあちゃん。


人との繋がりは素適だなぁと、しみじみ思った夜だった。


あのホッピーの味は忘れない。