クラシック音楽において、
傑作として世の中に残っている作品はバージョンの違う複数の楽譜が存在します。
例えばショパンの場合、
エキエル、ヘンレ、パデレフスキ、コルトーetc.
本当に沢山種類がありすぎて何を選んで良いのかわからないってことがあると思うのですが、
結論から言うと、どの作曲家でも色々な楽譜を見比べるのであれば最終的に何を選んでも良いと思います!
もし買うことができなくても音大の図書館で見比べることができるので一度やってみてください。
可能ならば自筆譜を見てみると本当に面白いのでオススメです。
今日は私の楽譜の選び方を書きます。
私の楽譜の選び方
1. 見やすさ
裸眼の視力が0.03しかない(メガネかけても0.5しかない)私にとっては、
楽譜の見やすさが重要なポイントではある。
楽譜によってはあまりにも五線譜の間隔が狭すぎて見づらい版があります。
あと、違う版の譜面を見比べると、
なんとなくやる気を起こさせる版とそうでない版がある。
これは完全に感覚の問題です。笑
ショパンのヘンレ版とかなんとなく嫌だし、
どこの馬の骨ともわからないマイナーな版だと
「お前、良くこれで商売できると思ったな!」とツッコませるほどの印刷不備の版もあります。(流石に今の時代には紙の楽譜としては流通してませんが)
2. 指番号
指番号は、
自分が弾きやすくて音楽的に自然な音色が出る指番号であればなんでもよくて、
それは自分で研究できることなので(1の指は豊かな音が出しやすいとか、4の指は柔らかく繊細な音が出しやすいなど)、
楽譜に書かれている指番号は参考程度です。
人それぞれ、手の形も大きさも柔らかさも違うので、指番号も違って当たり前です。
ですが、楽譜によってはミスプリが多いのもあり、
ミスプリは印刷されてしまっているので視覚的に邪魔になるんですよね。
今日見つけた指番号のミスプリがこちらです。
たまによくある(笑)、楽譜のミスプリ。
ラ・ド♯・ミを3,4,5で取るのは無理があるから、
3はド♯の上に来るはずなんだけど、個人的にはここは自然に2,4,5を使うかなぁ。
自然な指使いというのは、
フレーズの下から上の音(この場合、ミ〜ミ)までタッチした時に自然とそこに来る指ということ。 pic.twitter.com/nLJuSFGCsc— 佐野 主聞 / ピアニスト×ブログ×YouTube (@Shimon_Sano) May 26, 2019
3,4,5を使うのは無理があるので、これは6本目の指がないと使えない指番号ということになります。笑
個人的な体感では、
ウィーン原典版は割とこういうミスプリが多い印象があります。
私が小さい頃に「原典版主義」みたいなものが流行っていたので買わされた記憶がありますが、
大事なのは原典版どうこうよりも、まずは楽譜に書いてあることを音楽的に読んで表現することですよね。
2〜30年前の先生たちは「原典版主義」のようなものを掲げてはいたものの、
そもそも楽譜を読めてないので意味がなかったと思います。
残念ながら、その当時は楽譜を読むという行為を細かい部分まで言語化できる人がいなかった。
もしあの時代にちゃんと言語化できる人がいたなら、ネットが普及した時に一気に世の中に回っているはずなので。
3. 表情記号
1と2よりも大切なのが、
作曲家が楽譜に書いた強弱やスラーなどの表現を見比べて『音楽的に何が違うか』を調べて、それに準じた楽譜選びをすること。
なので、個人的には自筆譜も見たくなります。
スラーが違えば、呼吸する場所が違うのでどう歌うかも変わってくるし、
強弱によっても曲の持って行き方が変わります。
なので、一つのバージョンだけでは足りず、
色々バージョンを見比べて作曲家が何を言いたかったのか考えていくと
自然と音楽に説得力が出てきます。
例をあげると、違いとしてわかりやすいのがこれ!
ショパンのプレリュードop.28-4 ホ短調の最後の部分。
上はコルトー版、下はパデレフスキ版。
2小節目、左手が『シ♭』か『ラ#』か。
異名同音だけど、音の意味するところが全く違う。
音色、音の方向性が全く違う。
『シ♭』は、
一度奥の方に沈んでからフェルマータで浮かび上がってきて次の小節の『シ』にエネルギーが渡っていくイメージ。
『ラ#』は、
弾いた瞬間に次の『シ』に向かってエネルギーが上がっているイメージ。
感覚に個人差があるとしても、
♭が豊かなに下に響いてからゆっくり響きが立ち上っていく感じと、
♯は一瞬で上に響きがつきぬけていく感じはなんとなくわかると思います。
flatは「平らな」という意味、
sharpは「鋭い」という意味からも連想できますよね。
どちらの版が正しいかは置いといて、
色々な版を見比べて違いを調べることで
「その音はこういう音色で弾く!」
と確信を持って弾く手がかりになると思います!
その一音にどういうエネルギーを込めて、どういうキャラクターにするか…
そこに命をかけるあたりが、
クラシックの演奏家が持つ”素晴らしき変態性”です。笑